御冗談でしょう?中畑さん。3

八月最初の土曜日の午後。ヴィオラ弾きの彼女からLINEがきた。僕は自宅に一人だった。カラッと晴れたご満悦の土曜だった。

僕は友人から誕生日プレゼントにもらった『みんなの水イボ大図鑑』をちょうど3分の1読み終わったところだった。

 

「今から中畑君の家に遊びに行くんだけど、これから一緒に彼のマンションに行ってくれないかな? あの人、アロマ君(僕のあだ名だ)に久しぶりに会いたいんだって。」

「お邪魔じゃないのかな。」僕は聞き返した。

「大丈夫、来てほしいんだって。ねえ、品川駅に15時でいい?」

「がってん、承知」と僕は言った。EDOCCO STYLEだ。

「じゃあ、あとでね。」彼女はEDOCCO STYLEについては何も言わなかった。

 

しょうがないので続きが気になったが『みんなの水イボ大図鑑』は明日読むことにした。

 

本書は図鑑がその性格上、有しておくべき体系性というものを全面的に放棄している。

一読していただければわかるが、思いつくがままに私が所有し、とりわけ関心を持つ「水イボ」の写真を羅列しているだけに過ぎない。

もし本書の出版が皮膚科医にのみ「水イボ」への知的興奮の扉が開かれている閉鎖的現状への異議申し立て、および鑑賞対象として盤石なポテンシャルを「水イボ」が持っていることの証明にたとえわずかであれ寄与するのであれば、これは筆者にとって格別の喜びである。

 高木真澄『みんなの水イボ大図鑑』まえがきより

 

 


「鑑賞対象として盤石なポテンシャルを「水イボ」が持っている」

という甘美な一文を僕は頭で繰り返し唱えながら、ムッシュ中畑のマンションへ行くために身支度を始めた。