お父さんからメールがきた。

「ひょんなことから土にうまってしまい、身動きが取れません。はやくきてください。」

僕はお母さんにメールのことを伝える。

「お父さんがひょんなことから土にうまってしまっているみたいだよ。」

 「じゃあ、ぼくちゃんがいって出してきてあげて。」とお母さんはいう。

「今日はナオンオポチュニティがあるから嫌だなぁ。」

「ぼくちゃん、デートのことをナオンオポチュニティと言うのはやめなさい。不潔だから」

「はい、わかりました。とりあえずお昼ごはん食べてからでいいよね。」


 *


昼食を終え僕はフィリップスのソニッケアーを使って入れ歯を入念に磨いた。

歯を口から外して磨くというのも中々悪くないのかもしれない。

仕上げにシステマSP-Tメディカルガーグル(希釈タイプ)10適をアスティエのマグカップ底深くへ垂らし、クリスタルガイザー50mlに混ぜて歯茎のみの口内に勢いそこそこな感じで流し込んだ。


僕はブクブクとうがいをしながらBMW.E93.M3カブリオレでド派手に事故ったときのことを思い出した。

麹町の矯正歯科で完璧に調整された歯並びは崩壊し結局ほとんどの歯が折れてしまった。それもこれも、あれもこれも高井戸インターチェンジ上り入口付近をノロノロ走ってた間抜けなミニバンのせいだった。

結局来月のインプラント手術まで総入れ歯でいることになってしまったけれども総入れ歯の「総」という言葉はどこか重厚な感じがして僕は毎日それなりにご機嫌だ。

 


歯磨きが終わった後、なんか全て面倒くさくなったので僕は二階にある自分の部屋に行った。

「なにしてるの、はやくお父さんを出してあげにいきなさい!」

お母さんが一階からメス特有のうざい金切り声で怒鳴って来た。


 「入れ歯の調子が悪いんだよ。大体なんで、土にうまったお父さんを外に出すために僕の貴重な休日が犠牲にならないといけないんだ。」

お母さんは二階に上がってきた。

 

「まったく、なんで、入れ歯なんてしているの!こんなもの!」

お母さんは僕の入れ歯を窓から投げ捨ててしまった。重厚な総入れ歯の行方が分からなくなってしまったので、はなまる満点だった僕のご機嫌も遠くに消えていった。

「物は大切にしないといけないよ。まったく。お里が知れるね。」

僕は中学校の歴史の授業で習った「目には目を歯には歯を」というILLでDOPEな台詞をボソボソッと呟いた後、お母さんの歯を上下根こそぎ歯茎ごとちぎった。テンションが上がってきたし体も温まってきたのでついでに左目も潰してみた。

 

「もう、ぼくちゃん!お母さんの歯を根元からちぎるなんて!そんな風に育てた覚えはありません!ハンカチはもったの?早くおとうさんを出してあげにいきなさい!」

お母さんは床に転がった左目の残骸を拾う為にかがみながら小言を言った。

 

僕はなんやかんや支度を終えて。そそくさと車庫に向かうことにした。

 

「ETCカードが挿入されています。カード有効期限は2021年9月です。」

 

免許を取ったお祝いにお母さんが買ってくれたジープ・チェロキーのシート位置を調節し僕は渋々車にエンジンをかけた。