スタインウェイの上、オレンジジュース7

二日雨が降りそれから三日続けて晴れた。また雨が降った。その次の日。つまり土曜は快晴だった。

雨が降っている日。僕はおとなしく家で静かにPorn Hubをみる。

 たいていはインド人夫婦の動画だ。じっくりと時間をかけて細部まで鑑賞する。

インド人夫婦の107分に及ぶセックスに飽きると、ジュエリー販売と称して無差別に電話をかけてきた業者に暇つぶしの電話をかけた。

「指輪を買おうか迷っているんです」と言ったり「やっぱりやめようかな」とはぐらかしたりして電話の向こうにいる湘南出身の女の子とおしゃべりした。会話が続かなくなってきたので「やっぱ今回は買いません。また電話していい?」と僕は言った。女の子は無言で電話を切ってしまった。

雨の日はあまり物事がうまく運ばない。おうし座の運勢はその日「もやもやスッキリす」だった。大きく影響しているのだろうか。おそらく巡り合わせも悪かった。

 

反対に晴れている日は、プールで泳いだり、星野コーヒーに行って一人でパンケーキを食べたりして過ごした。僕はパンケーキを集中して食べたいというポリシーを持っているので一人の方が却って心地よかった。

 

晴れていても、雨が降っていても僕は結局ひとりぼっちだった。

 

そんな風にして一週間過ごした。最後のバイトの日の朝、僕はヘインズのTシャツに教習所のフリーマーケットで買ったオリーブグリーンのコットンジャケット、紺のテーパードデニムという格好で車のトランクを開け、中に大きなチェロケースをしまった。前日に代表から送られてきたラインによると、お昼過ぎから上連雀にある先方の自宅でレッスンをすることになっていた。教えられた住所に一番近いコインパーキングを検索したあとで僕は朝ご飯を食べることにした。

カラッと晴れて気持ちのいい午前中だった。トマトにマヨネーズをかけて食べ、ゆで卵にもマヨネーズをかけて食べた。チョコクロワッサンも食べた。牛乳も飲んだ。

ちょうどいい時間になったので僕は歯を磨いた。システマ・メディカルガーグル希釈タイプでうがいをして仕上げにPA+++の日焼け止めを顔と首に塗った。僕はサングラスをかけて駐車場に向かった。

 

家から上連雀までは車で40分ほどかかる。僕は水筒に入れたアイスコーヒーを飲みながら窓を全開にしてトクトクと車を運転した。

途中でガソリンが切れたのでスタンドに寄った。スタンドの自販機でコーラを買って飲んでいるとオスのカブトムシが洗車機の出した白い泡だまりの方に向かってトボトボ歩いていくのが見えた。

僕はカブトムシを手のひらに載せて草むらに放してやった。

「あっちは危ないから近づいてはいけないよ。」カブトムシにそう教えてあげた。なんだかションボリしているように見えた。

 

僕はションボリ・カブトムシについて考えてみた。このカブトムシはメスとの交尾にありつけるのだろうか?それとも子孫を残すことなく寂しく1匹死んでいくのだろうか。僕は心のなかで「君も僕もインド人夫婦のような幸せなセックスをすることが出来ればイイね」と言った。

カブトムシと僕の間には連帯の意識が共有されているような感じがした。

しばらくするとカブトムシはどこかに飛んで行った。僕は飛んで行ったカブトムシに挨拶をしてからガソリンをたくさん飲み込んだ車に乗った。とにかくとても気持ちのいい天気だった。