終わらない梅雨の空には。栞をつけましょう。

列島から四季がなくなっておおよそ2年たった。

人びとは雑煮を雨の中食べた。梅雨のせいだ。

卒業式も入学式も雨だった。梅雨だ。

海水浴場にはサーファーしか来なかった。8月は毎日雨だった。梅雨。

 

一学年における大学生の留年者数は10年前のそれに比べて6.1倍上昇した。

多くの学生は低気圧に苦しみベッドから起き上がれなくなった。1限の講義に参加することも出来ず必須科目を落とし留年するようになった。教育評論家は終わらない梅雨が学生のメンタルヘルスに大きく影響しているという指摘をしたがそんなことは誰にだってわかっていた。

 

SSRIを流通させている製薬会社の株価は大きく値を上げた。終わらない梅雨に多くの人間が辟易、精神を消耗させた末に心療内科へ通うようになったことは株価上昇に一役買っていた。

 

大勢の人間が朝起き上がれない自身の肉体を奮い立たせようとカフェイン飲料や太陽の光を模した照明器具、各種のサプリメントを購入した。amazonjapanではこうした商品がそれぞれのカテゴリーランキング上位に食い込んだ。

しかしそんなガラクタは気休めにもならなかった。

梅雨があけず2年たち、国民に占める自殺者の割合は劇的に増加した。

 

だれもこの滑稽な状況を好転させることができなかった。

土砂が崩れ、川は氾濫し、部屋干しのTシャツは悪臭を放った。

大勢の人間が1日の平均睡眠時間を7時間から15時間に伸ばした。

誰も起き上がることが出来なくなった。