2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

終わらない梅雨の空には。栞をつけましょう。

列島から四季がなくなっておおよそ2年たった。 人びとは雑煮を雨の中食べた。梅雨のせいだ。 卒業式も入学式も雨だった。梅雨だ。 海水浴場にはサーファーしか来なかった。8月は毎日雨だった。梅雨。 一学年における大学生の留年者数は10年前のそれに比べ…

手を挙げて。私は足を挙げる2

静音さんは西日本でカステラ屋を営んでいる家の次女として周囲からたくさんの。つまり雑多な愛情を注がれて育った。 彼女を取り巻く人間。つまり、静音さんの家族は彼女を甘やかしているというわけでもなかった。彼女はテレビを見ないで育ったしそれほどの金…

手を挙げて。私は足を挙げる1

各々が各々の手を挙げる。特に理由はないけれど手を挙げる。 人びとは手を挙げる練習をするために週に一度広尾駅のすぐ近くにある祥雲寺というお寺に集まる。 「はい!」 「はい!」 「はいーっ!」 それぞれが異なった境遇からこのお寺に集まって手を挙げる…

シラスの靴3

シラスの靴を履いたなら。 綺麗な足首ご満悦。 あなたも私も海の中 こっちにおいでよ、塩の粒。 あなたの身体の塩の粒。 ちょこっと私が舐めちゃうわ。 『シラスの靴』ベネディクト・アロンハイム 自転車を10分ほど漕ぎ指定された住所の前で停止する。 木で…

シラスの靴2

用水路に架かった橋から下を覗くと鯉がたくさんウヨウヨしている。 クヨクヨしながら食べきれなかった食パンをちぎって「えいやっ」と投げてみる。 人差し指と親指でこねられた鼻くそみたいなパンの破片はたくさんの鯉に向かって垂直落下していく。威勢のよ…

Dancing on the Ceiling

[証言1] 蜘蛛くん よく床で眠る人だったね。近くにベッドもあるんだ。なのに床で眠るんだよ。 たいていは浮かない顔してた。よく家の中にお邪魔してたんだけどさ。 僕がダンスしてるところ。たくさん見てくれたんだよ。結構いい顔してたよ。そういうときだ…

スタインウェイの上、オレンジジュース10

家主のおばさん。つまり今日のレッスンの相手は誰に頼まれるでもなくスタインウェイのグランドピアノに手を触れた。手はシワシワで爪は真っ赤だ。ロブスターみたいだ。 モーツァルト〈ハ単調のフーガK394〉 いつかゼルキンが弾いている音源を聴いたことがあ…

土 .7

何日たったのだろう。2日くらいだろうか?よくわからなかった。 僕は縦横2mの四角い大きな箱に入っている。 * 「この中へ」 僕をリビングルームまで案内した女は手に持っていた黒いコットン製のシャツとテロテロとしたズボンを渡しリビングから消えていっ…

チロシン

「バカな!俺たちあと5年と経たずに死ぬっていうのか!?。チロシンを毎日欠かさず飲んでいたというのに!?」 先月ここに入ってきた男が叫んでいる。 「亜鉛、グルタミン、ビタミンはなんだったんだ…」 「あとあれだよ、ナウフーズで買ったビオチンは!?…