土 .2

やっぱり、俺は頭がどうかしてるかな?ハンモックを蜘蛛の巣と間違えるなんて。だが、俺が近眼だって、俺のせいじゃない。

レイモン・ラディゲ『ペリカン家の人々』 

 土にうまってしまったお父さんを出してきなさいと言われ、しぶしぶ車のエンジンをかけたまでは良かったがメガネを洗面所に忘れてしまったことを僕は思い出した。

何かの雑誌でメガネをかけている男というものは男性性に欠けていると誰かが言っていた。変なことを言う人もいるんだなあと思った。言うだけなら簡単だ。

しかしいったい今まで何を見てきたら視力が落ちないのだろう。重要な物事がなにも見えていないから視力が落ちないだけのことじゃないのか。アホは視力が落ちない。それだけのことだと僕は自分を奮い立たせた。しかしいくら自分を奮い立たせてもメガネは降ってこなかった。

ひょんなことから土にうまってしまったお父さんには悪いがメガネがないとお父さんがどこにうまっているのか探すこともできない。僕は諦めてチェロキーに乗って女の子とコストコで買い物することにした。何事も引き際が肝心だ。

女の子の電話番号を探した。

「休みの日というのは女の子とコストコに行くのが一番です」

僕は小学校の道徳の授業でそう習った。今日は道徳で習ったことをアウトプットする日だ。

 なんやかんや基本的にとても運がいいので僕は電話番号をすんなり見つけた。

「今からコストコに行って買い物しようよ。あそこのポキ美味しかったからさ。また買おうよ。」

「今日はダメだよ。ぼくちゃんは「ひょんなことから土にうまってしまっているおとうさん」を出しにいかないといけないの。これはもう決まっていることなんだよ。」女の子が言った。

「ふむ。まあ仕方ない。出しにいくよおとうさんをね。」

「偉いね。ぼくちゃんにはそういった感じの偉さを私は感じるよ。がんばってね。」

「ありがとう、じゃあまたね」

僕は電話を切った後で「ふむ」と思った。

おとうさんがどこに埋まっているのかよくわからないので、僕はひとまずサウナでも行って精神を統一し、集中力を取り戻そうと決めた。