スタインウェイの上、オレンジジュース3

 

ベトナム航空で行く 送迎なしの自由旅行!

嬉しいアメニティ付き プーケット島7日間ダイヤモンドクリフリゾート&スパに滞在 HIS首都圏版より

 

恋人のビキニからタンポンのひもが出てしまっていることを指摘するとき。我々はパートナーに対して「タンポンのひもがでているよ」とストレートに伝えるか、あるいは「クラッカーのひもがでているよ。パーンッ」と暗示的にささやくか。概ね、これら二つの選択肢からセリフを選ぶという、たいそう悲劇的で痛ましい状況に身を投げ出されることになる。

 

もし、上記の明示的VS暗示的というお粗末な二項対立にデリダ流の脱構築を用いればタンポンのひもが出ていることをあえて指摘しないという第三の道が開かれるのかもしれない。

残念ながら僕は暗示的方法を選んでしまったため、わざわざ朝の10時にカフェインの力を借りHISのマイページにアクセスしなければならない。アクセスの途中で僕の使うdynabookは二度も固まってしまう。クソ。

僕はマイページへのアクセスをなんとか済ませ『日帰りで行けるコーラル島の青空と白い砂浜』の写真(HISはPhotoShopを使いトーンカーブで色をいじりまくっていた)を見ながら、『ベトナム航空で行く送迎なしの自由旅行!』のキャンセル手続きを行った。キャンセル手続きをしている途中にもdynabookは一度固まった。ロブ=グリエ風に言えば苦痛の漸進的横滑りみたいな状況だった。

 

不思議なことに何らかのキャンセル手続きを行うと、それによって得られた刺激が脳のどこかの部分に作用し全く別の事柄までもやめたくなることがある。僕は霊長類ご自慢のハードウェアが陥るこの種の一時的不具合を利用しアルバイト先の代表に電話を入れることにした。

「突然申し訳ありません。お話があるんです。今日のシフトの後可能であればお時間を頂きたいです。」

「薄々話の内容については推測できる。よく働いてくれたよ。生徒さんからも君の評判はすこぶるよかったしおかげで生徒も増えたからね。」代表はそう言った。

「ひとつだけ頼みがあるから、シフトが終わった後二人で話そう。とにかく君には感謝しているよ。」代表は、電話の向こうで何か飲みながらそんなようなことを言った。

「ではまたあとで。」僕は電話を切ってバイトに行く支度をした。

 

シフトレバーを一つスライド。減速。